草食男子?と眺める秋の動物園デート

♥動物園は、晩秋に行きたい。動物園の季語は秋。……と、私はいま勝手に決めました。特に上野動物園には、だいぶ気温の下がった日の晩秋や初冬が似合う気がする。なぜだろう。

私は、動物園の表門を入ってすぐにいるパンダやトラやゴリラよりも、モノレールの先の西園(というそうです)にいるアリクイ・フラミンゴ・カバなどの微妙な立ち位置の動物の方がどことなく好きで、その場所の方が落ち着くのです。

西園は不忍池に面していて、遠景に池之端の街並みが見え、夕方には池の向こうに日が落ちます。少し物悲しい。その物悲しさには、不忍池の葦が枯れていた方が似合う。それに、肌寒くてあんまり人出のない日のほうが似合う。だから秋がいいんだ、きっと。

♥そんなところに一緒に行くのは、動物好きで穏やかな、まさに草食系男子……というか、「草食動物好き」男子です。会社勤めで、きちんと土日に休みの取れる28歳。

もともと動物園好きの彼は全国の動物園を巡るほどのマニアですが、一番落ち着くのは子供のころからよく家族に連れてきてもらった上野動物園なのだそうです。小学生時代の彼は、東園から順に巡って西園の方まで来ると、もう今日の動物園も終わりだなあ、と感傷に浸っていたらしい。私も彼に感化されて上野動物園が好きになり、特に西園で長く過ごすのが二人の定番デートコースになりました。

♥動物園の閉園は早い。だから二人は、東園は軽く見て、不忍池の方でぶらぶらするのです。退屈そうなカバやアリクイやオカピを、ただただ「いいよね~」って言いながら、檻の前で日暮れまで眺め続けます。

そして、閉園間際に「池之端門」から出て、池のほとりを歩きながら湯島のほうへ向かいます。静かな街は一気にネオンのギラギラする歓楽街になる。草食(動物好き)男子の彼はお店には詳しくないので、ここからは私の番です。当たりを付けていたお店に行ったり、アメ横の喧騒の中で適当な店に入ってみたり、時には渋めのバーを探してみたり。上野近辺は、若者らしいオシャレさをあえて外して、東京の東側ならではの楽しみ方ができる街です。

そして私たちは来週もまた別の動物園を探すのだ。が、それは東京メトロからずれていくので、私の脳内で延々続けさせていただきます。



文・イラスト:能町 みね子さん


能町 みね子さん
能町 みね子さん

能町 みね子さん

文筆業兼イラストレーター。「オカマだけどOLやってます。」でデビューし、近刊に「『能町みね子のときめきデートスポット』、略して 能スポ」(講談社文庫)「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。「久保みねヒャダ こじらせナイト」にも出演中。
https://twitter.com/nmcmnc

※この記事は、レッツエンジョイ東京のフリーペーパー「東京トレンドランキング」2011年11月号(10/20発行)に掲載されたものです。
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※本記事内の情報は2015年12月05日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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