かつての港町で歴史と銭湯のデート

♥東西線で都心から下っていくと、南砂町より先では「地下鉄」のはずなのに高架になる。葛西と浦安の間では、旧江戸川沿いに今でも「釣宿」などの看板が見えて、ちょっと気になります。

現在の葛西駅前にはマンションが立ち並び、一見ただの住宅街に見えますが、かつては漁村で、ノリの養殖も盛んだったそうです。戦後しばらくはまだ漁業も残っていたらしい。釣り船などのお店の存在は、そのころの様子を感じさせます。

……というような歴史探訪ものの散歩が私は好きなんだ! だからこのへんを歩くなら、この地で生まれ育った人と一緒がいい。

だから、葛西の川沿いで生まれ育ち、その後都心部に移り住んで学生生活を送った大学教授とともに、故郷巡りを兼ねたデートをしたいんです。彼はバツイチの50代ってことでね。私がこの手の妄想をするときは、常にNHK『ブラタモリ』を下敷きにしております。

♥葛西駅を降り、まずは駅の北側に出る。このへんは道が整理されているけど、ぶらぶら歩いて東葛西2、3丁目の寺町の辺りに来ると昔の風情が垣間見えます。彼が子供のころ遊び回った場所。

旧江戸川沿いの狭いバス通りを南下して、雷(いかづち)(すてきな地名!)と呼ばれる辺りに来る。このへんが昔の教授の実家。でも、今はもうだれもいない。かつての景色を懐かしんだりしながら私たちは古い街並みを歩く。

また線路の北に戻って、浦安橋を渡ります。途中に工場だらけの中洲がある。ここは妙見島といいます。今はちょっと異様な(それでいて味のある)景色なのだけど、このへんの昔の様子も彼に聞いてみたいと思う。ゆったりした口調で説明してくれると思うのだ。

♥橋を渡った先は浦安。今の浦安市は湾岸地域に住宅が立ち並び、ディズニーランドもできて華やかなイメージのある街だけど、浦安駅の辺りにはかつての漁師町の名残があります。駅のそばの猫実(ねこざね)(これもすてきな地名)という地域の細路地を歩き回って、だいぶ汗ばんできたところで、最後には川沿いにある銭湯に入りたい。この街には意外にもまだ銭湯が数軒あるのです。

今回は銭湯が気持ちいいので、男湯と女湯に別れて入っているところで現実に戻りたいと思います。浦安の銭湯、都内よりちょっと安いんだ。


文・イラスト:能町 みね子さん


能町 みね子さん
能町 みね子さん

能町 みね子さん

文筆業兼イラストレーター。「オカマだけどOLやってます。」でデビューし、近刊に「『能町みね子のときめきデートスポット』、略して 能スポ」(講談社文庫)「ときめかない日記」(幻冬舎文庫)など。「久保みねヒャダ こじらせナイト」にも出演中。
https://twitter.com/nmcmnc

※この記事は、レッツエンジョイ東京のフリーペーパー「東京トレンドランキング」2011年7月号(6/20発行)に掲載されたものです。
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※本記事内の情報は2015年12月01日時点のものです。掲載情報は現在と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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